OKINAWENSE VOICE vol.002 後編
OKINAWENSEを構成する「COMPANION」(仲間)が紡ぐ言葉たち。
第2回/アルベルト城間(アーティスト)
OKINAWENSEの第一弾アーティストであるアルベルト城間さん。音楽家としてだけでなく、アーティスト・デザイナーとしての顔を持つアルベルトさんに、創作活動に対する思いを伺いました。
前編の記事はこちら
−今回、OKINAWENSEの第一弾アーティストに抜擢されましたが、そのきっかけは?
長濱さん(OKINAWENSEプロデューサー)との出会いは、南風堂のちんすこうのCMソング「南風」を作ったことがきっかけです。それからのお付き合いです。比嘉さん(OKINAWENSEディレクター)とはパークアベニュー(沖縄市)で一緒にいろいろやっていて、僕の読谷の家も作ってくれた人だから常に繋がってはいたんですね。彼はアパレルの事業にも携わっているので、僕は常に「こういうことやっていますよ」ってしつこく見せたりしていて(笑)。
ディアマンテスとして改めて「南風」を録音することになり、その話の流れで島ロックカフェの話や、デザインの話は常に長濱さんにもしていて、それで長濱さんの方からも「一緒に何か作りたい」と声をかけてもらって生まれたのだと思います。
僕たちの大きな共通点は、沖縄をハッピーにしたいということ。沖縄を幸せにしたい、もっとハッピーにしたいというのは全く同じ。それはイコール、世界をハッピーにしたいにつながる。今も戦争が起きているじゃない?世界がハッピーじゃないと沖縄もハッピーになれない。その気持ちがあるから、OKINAWENSEが生まれたのはとても自然なことだと思う。
なんていうのかな、タネってどう運ばれるかわからないじゃないですか。鳥なのか、虫なのか、だれかの洋服にくっついて運ばれるのか。それが土に落ちて、ふわっと芽がでる。そんな不思議な感覚ですね。思いとか夢とか、そういうのがふわふわっと在って、そんなタネみたいなものがポツンと落ちて、OKINAWENSEが生まれた。長濱さんは、ハチなのかな?(笑)。誰が(作った)というものではないですよね、神様なのかお天道様なのかわからないですけど。
そういう素敵な思いがOKINAWENSEにはある。長濱さんもよくおっしゃっているんですけど、ただ売れればいいというものじゃない。ストーリーがあり、世界を変えるという思いはブレない。それがOKINAWENSEだと思うね。…まとめちゃったね(笑)。
実をいうと、僕は昔から、もしファッションブランドを持てるとしたらOKINAWENSEという名前にしたいと思っていたんですよ。僕が作ったブランドではないですけど、あの時の思いとこういうご縁がつながって、僕はそれに自然と乗っかったというか。なんてうまい話なんだろう!と思いますよね(笑)。自分の夢だと思っていたものが、ひとの夢だったというのが、人間って本当に不思議なもんだなと。長濱さんがいっぱい持っている大きな夢の中のひとつに、僕も参加できたというのは嬉しいですね。
OKINAWENSというのは、沖縄“的”、メイドインオキナワ、ウチナーンチュ。もともとスペイン語にはオキナワという言葉はないじゃないですか。「僕はウチナーンチュです」は、スペイン語で「ジョソイ オキナウェンセ」となるんです。英語でOKINAWANというでしょう?それと同じ感じです。空手って世界中でいろんな人がやっているけど、どこの空手をやっているかと言う時に「カラテ オキナウェンセ」と言います。前に来る言葉で後ろの音が違ってくるんですけどね。ニカラグアはニカラグエンセ、ペルーはペルワーノ。沖縄みたいになかなか“ワ”で終わる名称ってないですからね。おしゃれに聞こえるでしょう?上品な感じもするって?(笑)、よかったそう言ってもらえて。でも、スペイン語に近いブラジルではオキナワーノって言うんですよ。僕的にはウェンセの響きのほうが好き。
−テキスタイルのデザインについて教えていただけますか。
不思議と僕はいつもどこかにギターを描いているんですよね。護佐丸にもギターを持たせているし、初めて描いた「謝恩」もギター。ギターあってこその自分というのもありますから。常にギターがあったというか。あと、ギターやウクレレって、みんながパッとみてすぐにわかるよね。(今回のテキスタイルも)隠れている感じはするけれど、ギターってすぐにわかる。どこからみても見つけられる。
とはいえ、ギターをテキスタイルにするのは難しいなと思いつつ、(柄を)繋げればできなくはないかなと。あと、色は僕が得意とするところ。スペースの中に色を置いていくっていう。いくつかのパターンを作って、スタッフのみなさんにみせて、今回の4つになりました。
最初につくったのは、「オリーヴ」です。迷彩からヒントを得ました。同じグリーンでも微妙に違う。実はこのシャツの中に、色が7つ入っている、らしい(笑)。僕はそこまで考えずに色を置いていたのだけど、色を布にプリントするときに、そんなにあったんだと驚いて。シルクスクリーンのパターンができれば、あとは色を変えればいい。バリエーションはいくらでもできます。・・・・僕のギターの模様がテキスタイルになるなんて、(昔は)想像もしなかった。本当に感謝です。
「カカオ」だけは僕の頭にはなくって、みんなから「こういうのもいいんじゃない?」ってアイデアをもらって作りました。コーヒーやカカオはペルーでも作られていて、カカオって状態によって青かったり黄色かったり赤かったりと色が全く違うんです。カカオの写真を見ながら、色を採って入れてみました。だから本物のいろんなカカオの色です。
モノトーンも作りたかったので、「ゼブラ」は白から黒までのいろいろなトーンを散りばめています。「ブリーズ」はブルーがベース。青というと空や海をイメージするかもしれないけど、僕は風だなと。白い線が間に入っていて、すっと抜けるような、ね。風って、どこの国にもあるでしょ。でも沖縄の海って特別なんですよ。どこの国にもあるわけではない。ペルーにはあんなきれいな海はない。だから今度は、沖縄の海を表現するようなものを作ってみてもおもしろいですよね、エメラルド系ね。エメラルドグリーン……あぁ、素敵だな。きっと合うと思う。珊瑚礁の色とあわせてね、きっと合うと思う。(想像が)広がりますよね。
今回はコンセプトとして、大人向けの色合いというか。リゾートや観光といったことを超えて、派手というよりもおしゃれに、さりげなく、という。なので、そんなに強い色はないかもですね。カラフルでありながらも、主張しすぎない感じです。
1つのテキスタイルに7色も入っているのに、まとまって見えますよね。僕は、色の合う、合わない、を専門的に勉強したことはないんですよ。最低限の知識はありますけど。けど、アートにしろ、音楽にしろ、法則というのは破った時に面白いものが生まれる。どこかちょっと壊した時。料理もそう。料理も僕はアートだと思っていますけど、こんなものを入れたら合わないだろうと思っているものも、入れてみたら、あれ?うまい!というのはよくあることだと思うんです。ちんすこうだって、まさか塩を入れようなんてはじめは誰も思わない。でも誰かが入れてみたら、おしいじゃない!というね。そういうことなんですよね。アイデアと飛び込む勇気。絵もデザインもそうだと思うんです。やってみないとわからない。僕も最初に描いた壁画は、やったことなかったくせによくやったなと自分で思いましたよ。けど、やってみれば、もしかしてできるんじゃない?って気になってきて。自分の中で飛び込む勇気。絵だって、この色とこの色って合うかな、大丈夫かな?でもやってみたら、あれ?(意外といい!)っていう。それが刺激的だったりして、こういうことがデザインの力だと思ったりしますね。ここにこの色はないでしょう、というのもデザインの驚きというか、壊してしまう勇気というか。それがないと人は見てくれないし、そこにこそ何かがあると思うんです。
さっきも言ったように僕は(デザインを)深く勉強をしたことはなくて、今回は自分の感覚を信じてやった感じ。ただ、色の配置については、母にはっきり言われたことがあります。線があって、いくつかスペースがあって、色(クレヨン)はこれだけしかないけど、絶対に色は重なっちゃダメよって。それだけを守っています。誰も確認しないと思うけど(笑)。線と線がクロスするところは別だけど、あとはひとつも重なっていないです。
–実際に出来上がったテキスタイルや商品を見たときの感想を教えてください。
もう、夢ですよね。夢のような話です、言うことない。最初で最後でもいい、これ以上望まないくらい嬉しい。もちろん、次の機会があったら喜んで受けますけど、僕以外にもたくさんのいいデザイナーがいますから、OKINAWENSEが若い人たちの力になれば嬉しいですね。もう、僕はきっかけだけでいい。たくさんデザイナーがいるから、その人たちがOKINAWENSEに関わってくれたら最高ですね。長濱さんもそれが頭の中にあると思います。OKINAWENSEに参加できるデザイナー、若い人たち、もちろん先輩方もすごい人たちがいるから、彼らが関わりたいって思ってくれたら嬉しいですね。音楽もですが、「ラテンはディアマンテスに任せる」、ではなくて、みんな使って!って。誰のものでもない、みんな楽しければいいじゃないっていう。沖縄の精神そのままですよね。OKINAWENSEも参加型です。チャンスかもしれないですよ、どうぞどうぞ、って。長濱さんと比嘉さんがOKさえしてくれれば(笑)。
OKINAWENSEは開かれたものでないといけない、と思います。長濱さんもそう考えていると思いますよ。だって、ウチナーンチュって世界中にいるので。僕のいとこにも一人、プロのデザイナーがいるんだけど、(OKINAWENSEを)狙っているかもしれないよ(笑)。まだ誘ってはいないけど、僕のことは見てはいると思う。いいなぁアルベルト、って思っているかもしれないね、向こうはプロだから。いとこのように、世界のウチナーンチュでつながるOKINAWENSEであってほしいという思いが最初からあったので、沖縄にいる若いデザイナーもそうだけど、ハワイ、ペルー、ブラジル、アルゼンチン、メキシコ、世界中にいるアーティストがOKINAWENSEに。…想像するだけでワクワクするじゃない?それはもう言うことないですよ。妄想するだけで楽しい。だから僕は最初で最後でも大満足。ずっとこれだけでも自慢できる。OKINAWENSEの最初は僕がやったんだよ、って(笑)。今後どんなデザイナーが参加するかとっても楽しみです。夢が、ストーリーがある。ストーリーというのはきっと終わらないだろうね。たくさんのストーリーが生まれればいいな。
−これからやってみたいこと、チャレンジしてみたいことはありますか?
今やっていることが全てですね。これらを続けられたらどんなに幸せかと思います。ディアマンテスの活動もそうですし、こういうデザインの仕事も続けられたら幸せですね。アーティストなので、欲張りなんですよ。こういうのもできたらな、とか、映画も作りたいなぁとか。映画を作るには最低2億円かかるときいて、なにそれ?無理だなって思ったけど、最近はスマホとかで簡単で作れるらしいね。今の世の中はなんでも可能になっていますから。気にいったことに関しては、なんでもやりたいですね。(コロナもあって)舞台は難しいけど、映像は人に見てもらえる。映画って、いろんな芸術が一つにまとまっている。写真、デザイン、音楽、脚本……アートの塊じゃないですかね、映画というのは。まだなにもどういう映画なのかは決めてないけど、沖縄に関するものになるでしょうね。格好いい俳優がでてきて、OKINAWENSE着てもらえたらいいですよね(笑)。
僕が常に思うのは、やっぱり言ってみるもんだなと。言えば(言葉にすると)、響きがちらちらと残るんですよ。僕は思うだけじゃなくて常に言葉にしているんですよ。OKINAWENSEという言葉もそう。身近な人にですけどね。妻から「何年も前からOKINAWENSEって言っていたよね、(形になって)よかったね」って言われて、あぁ、僕は言葉にしていたんだなって。東京に引っ越しする15年くらい前か、もっと前から言っていたんでしょうね。まさかこうやって形になるとは。ただ、この企画自体は、3〜4年かけてという話ではなくて、ほんと1〜2年くらいでここまで来てますからね。これはやっぱり人の縁だと思います。すごいなと思います。
言葉に出すって大切だと思います。祈りみたいなものですよね。祈っていれば叶うでしょ。そんな感じだと思う。……(願いが)人のためであれば、叶うと思う。もちろん自分のためでもあるけど、自己満足だけの話じゃなくて、何かを残して、みんなをハッピーにするものって、いいじゃないですか。僕は家族がいて子どももいるし、子孫によりよい世の中を残していかないとね。そう、ほんと。
子どもが3人いるけど、「パパいいな、いつも沖縄に遊びに行って」って言われる。違う、仕事しに行ってるんだよって(笑)。彼らは東京にいるから、沖縄に憧れがあるんだよね。音楽仲間も、「アルベルトは沖縄で仕事ができていいな」と、憧れがあるんですよ。だからその沖縄は常にハッピーでないと、ほかもハッピーにはしきれない。憧れの沖縄であってほしいから、いろんな問題を抱えているけれど、そんな問題よりも、常に最高なものを作ればいい。それ(その問題)が見えなくなるくらい。あったよね、そんなこと、というくらい。そんなことよりも、沖縄にはこんなにすごいものがあるよって。それはアートであり、音楽であり、沖縄のクリエイティブなもの、創造力、好奇心、進化、とかね。
–アルベルトさんにとって音楽やアートはどういう存在ですか?
そうですね……似ているようで、似ていない。どちらも表現するもので、代弁にもなる。音楽はストレートに伝わるもの、わかるもの。けど絵やデザインというのは(それ自体は)黙っているけど、見る人によって解釈が違うし、感じ方も違う。僕の本職である音楽はライフスタイルというか、歳をとっても、ギター一本でどこかのカウンターバーで歌っているイメージはできるね、ヨボヨボになっても。それさえできれば幸せ!これは、「できること」で、僕の本職……アートは、それに乗っかっている部分はありますよね。「アルベルト城間が絵を描いているな」という。音楽がアートを引っ張っていってくれているような気がします。音楽に負けないように、アートやデザインもがんばらなきゃと常に思うよね。どちらかというとアートの方が後になっちゃっているから。音楽がアートを育てているのかな、もしかすると。だから、恥ずかしくないように。でも、決してプレッシャーではないですよ。こうして発表できるというのは、続けていてよかった、すごく頑張った!という感じよりも、続けていて、続けられてよかったという感じかな。
去年(2020年)出したディアマンテスのアルバムのタイトルが「paso a paso」、「一歩一歩」っていう意味。何か続けていれば見えてくるものがある、という歌詞なんですけど、歩いていれば景色が見えてくる……なんだか、だんだんおじさんみたいな発言になってきますね(笑)。
この前、娘の大学の卒業パーティーで、飛び入りで歌ったんです。ダンス部でクラブを貸し切って、娘が企画したものなんですけど、パパも15分くらいなら歌っていいよって言われたので、しつこくない程度に(笑)。それがすごく楽しかった。さっき言ったように、その子たちには、何かを残してあげたい。伝えたいけど、どうやってこの子たちに伝えたらいいのか、と思ったけど、でもチャンスだよね。もうお酒も飲める年齢の子たちだし、たばこも吸っていて、「こんな煙たいところで最近歌ったことないなぁ」なんて思いながらやりました。「若いっていいよね。最近僕が作った曲、みなさんは知らないだろうけど、せっかくだから聞いてね。『paso a paso』、スペイン語で“一歩一歩”という意味なんだけど、一歩一歩ってとても地味に聞こえる。みなさんは若いから、一歩、二歩、じゃなくてジャンプすることもあると思う。でも、つらいときというのは、必ずみんな持っているから、そんな時にこの曲を思い出してね」と言って、歌ったんです。そしたら、最後にはみんな泣き出して、歌い出してね(笑)。これですよね。音楽って2〜3 分で何かを残せる。種でもいいんですよ。「あの時、小さいおじさんが、こんなこと言っていたな」って思い出してくれれば(笑)。
−アートにもそういう「種を撒く力」がありますか?
少なくともこのシャツを誰か着てくれれば、誰かが見てくれる。歩く宣伝ですよ(笑)。あと、ピアノもね。わざわざ黒くてかっこいいピカピカのピアノを削って色を塗る。削らないと色が乗らないんですよ。わざわざそういう作業をするというのは、そのピアノの価値を見出してもらうための手段というか。色をつけることで、弾きたい、触りたい、なにこれって興味を持ってもらう。やっぱりそこには、“目”なんだよね。黒いピアノだとなんかちょっと近づきにくいよね。でも、開けてポンっと押せば、音がでるんですよ。それがピアノの凄さですよね。開けたい、弾きたいって思わせるのが、色、アートの力だと僕は思いますね。
−アートと音楽は、2つわかれて存在するというよりも重なっている感じでしょうか?
重なっていますね。僕の場合は、自分でいうのもなんですけど、二刀流(笑)。どちらも単独でいけるものでしょうけど、ここまでやってきたものが自然とそうなった感じです。これからもやっていきたいな。求められたらやりますよ。
−アルベルトさんにとって「生きがい」とはなんですか?
生きがいね……僕は常に、出会いを大切にしている。誰でも仕事はしないといけないし、勉強はしないといけないし、みんなやるべきことがいっぱいある中で、出会いは自分にとっての元気の源です。もちろん出会いによって、たまにガッカリすることもあるんですけど、それも勉強。僕は性格上、決してマイナスには持っていかない。出会いは生きがい。大事にしたいし、今やっていること全てがそこにつながっていく。それが生きがいかもしれないですね。出会いは人だけじゃなくて、出来ごととか、ニュースもそうです。ひとことで言えば、“出会い” が “生きがい” ですね。
Profile
アルベルト城間(あるべると・しろま)/1966年生まれ、ペルー共和国リマ出身の日系三世。1991年にDIAMANTES(ディアマンテス)を結成し、ボーカル、アコースティック・ギター、パーカッションを務める。音楽活動だけにとどまらず、絵画「謝恩」で2012年沖展に初入選。壁画制作やピアノにペインティングを施す「アートピアノ」など、画家、デザイナーとしても活動の場を広げている。
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